大分でのビューティフル・ライフを満喫するプロジェクト


by dze03247H
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雨にぬれても

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私は就寝前に必ず葉巻(シガー)を一本だけ吸う。
ミディアムサイズのシガーだが、ゆっくり時間をかけて吸うと15分程かかる。

私にとって これが一日の終りの至福の時なのだ。

丸いぼんやりとした白熱灯の優しい光にシガーの煙が霧のように漂う。

そして、エーゲ海にあるような、雪のような真っ白いリゾート・ホテルを連想してみる。
思わず、マティーニを注文しそうになる。

しかしそこにバーテンダーはいない。
この空間には誰もいない、私一人だけなのだ。

モルダウ河が海に達するように、私は雨垂れの音を聞きながら 思いにふける。

“Happy Ever After”

私は 光の陰影が投射された天井を眺めながら、思わず深い溜め息をつく。
何の回答も出てこない。

Deleteキイを押す。画面が白くなる。

私がシガーを吸うようになったのは5年前位からだろうか。

丁度その頃、私はタバコを止めていた。
もう禁煙してから1年が経とうとしていた。


ある日の夕方、携帯が鳴った。
私は彼女からと思い込み、おもむろにポケットから携帯を取り出すと着信画面も見ずに電話にでた。
「今日はどこで食事する?」と言ったのだが、相手は高校時代の友人だった。

久しぶりの会話だった。
思わず「元気だったか」と尋ねる。
友人は無言だった。

「どうしたのか」と私が尋ねると、Nが死んだと沈んだ声で言った。

一瞬、彼が何を言葉にしたのか分からなかった。
信じられなかった。

Nとは、よく一緒に合コンがてらスキーに行った。
いつもユーミンの曲を聴きながら、私たちは広島や島根のスキー場にあしげなく通った。

彼の滑りは最高だった。ゲレンデでは憧れの的だった。

思わずそんなシーンが脳裏をよぎる。

「なぜ死んだのかと」と聞き返す。
少しの間の沈黙の後、小声で友人が言った。


自殺だった。


彼は教員になるべく採用試験をずっと受けていた。
その間 臨時で高校の事務員として働いていた。

そして新規に臨時採用が決まった翌日に、自ら命を絶った。


私は急いで会社に戻り 仕事に取り掛かった。
クライアントに提出する 重要な資料を作成しなければならなかったからだ。

通夜にはいけないが、せめて葬儀には何が何でも出席しなければならないという使命感みたいなものだった。

葬儀は滞りなく平凡に執り行われた。

死者の儀式は、誰でも何処でも結局 普遍的なのだ。

ただ、私の虚無感だけが 薄い空気の中で渦巻いていた。

「弱い奴だ。」

それ以外に言葉というものがまったく浮かんでこなかった。

なぜ彼は死を選択したのか。そんなことはどうでもよかった。たいした問題ではない。


世の中には誤解というものはない。考え方の違いがあるだけなのだ。


棺桶の蓋を閉め、釘を打つ時 思わず涙がでた。
私は誰にも気づかれないように、スーツの袖でそれを素早く拭った。

やっぱり「弱い奴だ」と思った。


その日の夜は参列した友人達と遅くまで酒を飲んだ。
その時タバコを何本か吸った。

その2週間位後に葉巻を買ってしまった。タバコとは違うものだと勝手に思っていた。

スウィッシャー・スイートというバニラ風味のリトルシガーだった。
本当に興味本位だった。

それからキングエドワード、ダヌマン、アルカポネと10種類程吸ってみて、今のミュリエル・コロネラに決めた。
それ以来ずっとこれを吸い続けている。

味はココアとブランデーが混ざったような感じで、ほんのり甘い。

家では一日1本しか吸わないが、これがラウンジやクラブでは普通に吸っている。
まるでタバコを吸うかのように。

いつのまにか また、愛煙家に戻ってしまった。
「弱い奴だ。」

葉巻を吹かしている間、ゲレンデを颯爽と滑る彼の姿が 時より 瞼に浮かぶ。

本当にかっこいい奴だった。

彼はあきらめ、あるいは絶望し、あるいは沈黙し、最後に私の前から去って行った。

何も言わずに。


人々は入り口から入ってきて、出口から出ていく。

いろんな入り方があり、いろんな出方がある。
しかしいずれにせよ、最後はみんな出ていくのだ。

優しい光の中に漂う煙の中に、彼の口にした言葉や、彼の息づかいや、彼の口ずさんだ唄が、部屋のあちこちの隅に 霧のように漂っているのが見える。

“Why Should I Care ”  

それにしても、この雨はいつ止むのだろうか。

何となくB.J.トーマスの"Raindrops Keep Fallin' On My Head"060.gifを口ずさんだ。

そして再び Deleteキイを押した。




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by DZE03247H | 2010-07-03 00:51